込んでいるでもない客がまばらなレストラン。煙草を吸いたかったのもありテラス席につく。注文を取りにくるのが遅かったし、ウェイトレスはぶっきらぼうだし、おまけに頼んだシーフードパスタは塩気がきつく途中であきらめた。
小雨が降ってきた。店内を見ると角に一つ空いているテーブルがあったので僕たちはその席につく。黒服の女は目の前にあるシュガーポットから角砂糖を取り出し、積み上げる。
「祖父とは小さい時分、それは数多く旅をしたわ。一番思い出深いのは甘い匂いのする花が咲いている素朴な街で、遠くの方で美しい鳥の鳴き声に聞いてみると〈ナイチンゲールだ〉って。私たちが滞在した小屋の向かいに孤児院があって、そこで一人の女の子に会ったわ。ブロンド髪の女の子でニコニコしながら私の知らない歌を口ずさんでたの。仲良くなって二人してイチジクの木の下で絵を描いたりして遊んだわ。ブロンド髪の綺麗なその子は夢中で先の尖った小石を持ってからすの絵を描いていたんだけど、私は彼女の手首にある輪っかの擦り傷が気になって…。」
角砂糖が積みあがっていく。