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Regina Spektor "Us"

仕事終わりに、目的もなく行く当てもなく家路とは反対方向に車を走らせた。 ラジオからたまたまRegina Spektorの『Us』が流れたからか、夕暮れ時にふと見た空がコバルトグリーンの夕焼けだったから…。いや、理由なんて本当に些細な事だ。仕事場の同僚がとてつもなく情緒不安定で、今日が彼女にとってrowな日だったか知らないが、何かにつけて僕に当たってくるのにホトホトうんざりして、まっすぐ家に帰るのもなんだし、気晴らしにドライブしたかっただけだ。

どこから話を始めたらいいのかー。

人に話したところでどうなる訳でもないけれど。

国道を走っていると、ふと1羽の白からす?白色をしていたが、たぶん形からしてからすだと思う。流線型を描きながら、左手に見える長い坂道に並ぶバラック街を飛んでいった。車をコンビニエンスストアの駐車場に停めて、早く仕事着、これがまた見るに耐えないデザインなのだが、を脱ぎたい僕は、ドアーフみたいな店員にトイレを借り、車にいつも積んであるジーンズとネイビーシャツ、ネットオークションで買った元々は赤い革だったロングブーツにトレンチコートを羽織った。

♪口笛「sheep sleep」

長い坂道に並ぶバラック街が気になったので少し歩いてみる。このバラック街はどうやら家同士がつながっているらしい。ある家の入り口で東南アジア系の若い女が手招きをする。普段だったら絶対に行かないが、その時の僕は昼間の同僚の情緒不安定な顔が頭をかすり、半ばやけくそ気味にその家に入ってみると、中には30人ぐらいの女達が床に布団を並べ、その上に座り、引きつった笑顔で僕を見つめている。
胸には番号が書かれたプレートが貼っている。様は売春宿だ。
奥のキッチンには「Black&White」と書かれた缶入りのラードが置かれている。ある女に話しかけてみると、「ワタシタチのオカネはね、夜は男達とネンネして、昼はどうやら豚骨スープと豚肉、残りの油から採るラードを売るらしい。」と片言の日本語で答えた。 彼女達の目線を気にしながら、家の継ぎ目にあるドアを開けてみる。

だだっ広い部屋だ。二人の少女と一匹の子豚を見つける。一人の少女は脚立の上に座り「sheep sleep」というタイトルの絵本を読んでいる。延々と同じメロディーの口笛を虚ろな目をしながら吹いている。聞いたことのない曲だ。もう一人の少女は部屋で走り回っている。さっき会った女たちとは違うこの場に不釣り合いな格好をしている。プラスチックのような人工的な顔で、どこの国の言葉か分からないが、不気味な歌を歌いながら、手に人型のオブジェを握りしめ、子豚を追い回している。

♪口笛「sheep sleep」

壁にはひび割れた小さな窓、ふと外を見ると映画の撮影が行われていた。
演じているのは大御所らしい男優が二人。田園の中を走る一台の車。DAIHATSUのmiraのようだ。時々雲に隠れていた太陽が車に当たり、夕暮れの逆光で黒いシルエットが田園風景と溶け込んでいる。
頭を掻きながら監督が助監督に向かって怒鳴りつける。すると遠くの方で嘘くさい雷音がゴロゴロと鳴っている。雷鳴のシーンを撮るようだ。何か気に障ったのか大御所の男優二人は助監督に怒鳴りつけている。助監督はあたふたと戸惑い気味の様子でヘコへコしている。
撮影隊がいる場所へ行ってみようと、窓の横にあるドアから外へ出る。ボロボロのバラック街から右の角を曲がる。ボロボロのガレージはシャッターが開いていて、先程の雷鳴を鳴らしていた音響のセットやモニターが並んでいる。
田んぼのあぜ道辺りを風景に似つかわしくない社交ダンスで着るような派手な格好で、またも似つかわしくない阿波踊りみたいなダンスをしている女達。ベテランの女優二人。ちょうど撮影がスタートしたばかりで、「もうそろそろ世代交代よ」と登場する若手の女優。嘘くさい雷鳴の中、棒読みの台詞が聞こえる。

コンビニエンスストアに停めている車に戻ろうとした僕の左側を走る一台の軽トラック。サイドドアがへこんでいて、アルファベットの「R」の一文字がプリントされている。乗っているのは6才ぐらいの小さな男の子とその父親。木材やらビニールシート、大量の缶詰、鉄粉のついた麻布等が積まれている。その中に異様に大きなモンキーレンチがあって、先端は少し錆び付いている。交差点の信号が赤になり、軽トラックが止まる。 小さな男の子は森永製菓のミルクキャラメルを嬉しそうに頬張っていりながら、運転席に座る父親からカセットレコーダーを渡され何か吹き込んでいる。

第2章 老紳士と黒服の女、インディーズバンド「Spellters」、シティー派のギャング